プラスチック製品にかざすと、そこに含まれているプラスチックの種類を識別できる小さな装置を、オランダ・デルフト工科大学の大学院生、ジェリー・ド・ボス氏が発明し、2021年のジェームズ ダイソン アワードを受賞しました。
「最初にプラスチックのことを詳しく学んだのは大学の時。しかし、その時に学んだのは、プラスチックの種類や作られ方についてで、製品が誰かの手にわたって使われた後、廃棄された後のことは考えたことがありませんでした。プラスチックの負の側面を知ったきっかけは、旅でした。私が住むオランダの街は、いつも綺麗に整備されています。例えば、朝、街のごみ箱にごみを捨てたら、数時間後にはそれがなくなっています。だから、生活のなかでごみが問題だと感じたことはありませんでした。しかし、旅行で他の地域を訪れたとき、街にごみがあふれている様子を目の当たりにし、ごみが適切に処理されていない場所があると気付いたんです。それが、私がごみに興味を持った瞬間であり、ごみの問題に対して『何かしたい』と思った瞬間でした」
プラスチックは、軽くて長持ちし、そして安いため、いろいろな製品に使われています。しかし今、私たちはプラスチックが問題を起こすことも知っている。特に、食品や日用品のパッケージ、スプーンやフォークなど、たった一度、数時間使われただけで捨てられる「使い捨てプラスチック」は莫大な量のごみを生み出し、その削減に向けて各国は取り組んでいる。もう一つ課題がリサイクル率の低さである。世界全体におけるプラスチックリサイクル率は、たった9%。日本では、プラスチックのリサイクル率は80%を超えるとされているが、実はその半分以上が、燃料として燃やされている。つまり、現状では生産されたプラスチックの多くが、リサイクルされることなく地球上に取り残され、そのほとんどがマイクロプラスチックとなって海や川に流れ出たり、埋め立てられたり、燃やされたりしている。
しかしなぜ、プラスチックの多くがリサイクルされていないのでしょうか。ジェリーさんはプラごみ問題に取り組むボランティアとして活動する中で次のようなことに気づきました。
「活動するなかで、プラスチックの『分別』に課題があることを知りました。私たちがプラスチックと呼ぶものにはとても多くの種類が存在します。例えば、ペットボトルなどに使用されているのは、ポリエチレンテレフタラート(PETと呼ばれるもの)、レジ袋にはポリエチレン、ストローにはポリプロピレン……などと使用されるプラスチックの種類は多岐にわたります。それらは一つ一つ融解する温度が異なっており、リサイクルするためには種類ごとに仕分けされる必要があります。そして、その仕分け作業は人の手によって行われています。大量にあるごみの中で、一つの種類のプラスチックだけを集めるのはもちろん大変な作業です。」
大きな労力と時間が割かれているプラスチックの仕分け。その負担を少しでも減らすことで、プラスチックのリサイクルをもっと進めたい、そんな想いから、ジェリーさんは分別作業を楽にするプラスチックスキャナーの開発を始めました。
「既にある西欧諸国のプラスチックスキャナーの仕組みを調べてみると、赤外線で素材を見分けるというシンプルな仕組みでした。なので、自分でも作れると思ったのですが、そういったスキャナーは非常に高価でした。そこで、自分は誰でもどこでも使える、もっと安価でシンプルなプラスチックスキャナーをつくろうと考えました。途上国の人たちの手に届くものにしたかったんです」
「これからどうなるかはまだわかりませんが、2022年にはこのスキャナーを作りたい人が自分で作れるようにしたいと思っています。それと同時に、企業に販売するなどを通して、うまくパートナシップを結べるかどうかや、他の国々の人々に使ってもらうことができるかも確かめたいですね。でも、とにかくこれからも自分が好きなものづくりを続けること。これが一番やりたいことです」