今、温室効果ガスの排出量を減らすための効果的な方法として世界的に注目されている電気自動車は、地球にはやさしいかもしれませんが、人間には必ずしもやさしくないという一面があります。
子どもによって成り立つ電気自動車
2021年4月、「温室効果ガスの排出量を2030年までに13年度と比べて46%減らす」という方針が出され、持続可能な開発目標(SDGs)とも関連してよく取り上げられています。なかでも世界的に高い関心を集めているのが電気自動車の開発・ふきゅうです。しかし、温室効果ガスの排出量を減らすための効果的な方法として注目される電気自動車も完ぺきではないのです。
特にのが、コバルトという鉱物をめぐってです。コバルトは、電気自動車に使われるリチウムイオン電池を作るために必要です。世界全体のコバルト生産の60~70%をしめるコンゴ民主共和国では、コバルトの開発のために子どもが働かされています。子どもたちはじゅうぶんなお金をもらえなかったり暴力をふるわれたりするだけでなく、体に悪い物質を吸いこんだりケガをしたりして亡くなってしまうということも起きています。
ないものとされるコンゴの問題
ところが、二酸化炭素の排出量を減らすことが大きな注目を集める中で、コンゴの問題はないものとされやすいのです。他の分野で地球環境や人、社会に配慮していると強調する国・企業も同じです。
それがよく表れている例は、コバルト開発にかかわる多くの企業が2019年12月にうったえられた裁判です。これらの企業は子どもを働かせただけでなく、食事も十分にあたえず、お金も1日約300円しかあたえていなかったといいます。鉱山では安全対策もきちんとされておらず、子どもが亡くなってしまっています。
うったえられた企業の1つであるグーグルは、「原材料を地球環境や人、社会に配慮して手に入れ、製品に関わるすべてで子どもを働かせないように努力している」とコメントしています。
残念ながらコンゴでは、それ以外の資源をほりおこすためにも、海外企業がからんで子どもの権利がうばわれています。しかし、温暖化対策として注目されるコバルトの開発には、「持続可能」や「地球環境や人、社会に配慮している」といったイメージがつきやすいので、子どもの権利がうばわれていても、無視されやすいのです。
子どもの権利がうばわれていても国際的に見過ごされている
もちろんコンゴでも、子どもが働くことは法律で認められていません。しかしアフリカでは、政府と結びついた企業によって子どもの権利がうばわれても見過ごされやすいのです。そのため、法律でどれだけ子どもが働くことなどを禁止していても、企業に対する見張りなどはほぼ意味がなく、法律を守るよう注意することなどもほとんど行われていません。
それどころか、海外企業の利益を守るため、コンゴ政府がコンゴ人をおさえつけることもあります。コンゴでは、海外の大企業とコンゴ人の間で、鉱石をほりおこす場所などをめぐってよく問題が発生していました。2019年には、コンゴ最大のコバルト鉱山にコンゴ軍が進出し、コンゴ人1万人以上を住んでいる地域から追いはらい、多くの人がケガをしたり亡くなったりしたと報告されています。
さらに、コバルト生産に関連して子どもの権利がうばわれるのは、国際的に見過ごされているからでもあります。実は、子どもの権利をうばって生産された資源は、使われないようにされることもあります。それを使うことで、他の国も子どもが働くことを認めることになるからです。実際に、先進国はコンゴ産の金やスズなどの輸入をやめています。しかし、コンゴ産コバルトに関しては、輸入を禁止していません。温室効果ガスの排出量を減らす取り組みを進める中で、コバルトがどんどん必要になり、各国はその輸入をやめていないのです。つまり、温室効果ガスの排出量を減らすために子どもの権利がうばわれても見過ごされ、そうして生産されたコバルトを使ったリチウムイオン電池が、電気自動車だけでなくスマートフォンやパソコンに利用されているということです。
「だれひとり取り残さない」との大きなずれ
もちろん、電気自動車のふきゅうを悪く言うつもりはありませんし、温室効果ガスの排出量を減らすという目標そのものは重要です。とはいっても、コバルト生産にかかわる企業の多くがSDGsに賛成し、地球環境や人、社会に配慮した消費や持続可能性をすすめているので、その大きなずれが目立ちます。ちなみにSDGsの根本的な考えは「だれひとり取り残さない」です。本当に、だれひとり取り残していないのでしょうか?
イギリスでは、産業革命の当時、子どもが安い賃金で1日10時間以上働くことが当たり前でした。産業革命は1750年ごろから始まりましたが、10歳未満が働かされることが初めて禁止されたのは1878年でした。科学技術に比べて、人間そのものの進歩はとてもおそいのかもしれません。