地球温暖化が進んでいる今、電気自動車やハイブリッド自動車など、さまざまな自動車が登場しています。しかし、ガソリン自動車がどれほど二酸化炭素を排出しているのかが分からないと、車の脱炭素化は本当に必要なのか疑問に感じる人もいるはずです。そこで今回は、脱炭素化における車事情について解説します。
ガソリン車はなくなる?車の脱炭素化とは?
脱炭素化とは、地球温暖化の原因となる二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を防ぐため、化石燃料を使用しない取り組みのことです。身近なもののひとつとして、車の脱炭素化が進められています。
車はガソリンを燃焼させて走るため、多くの二酸化炭素が発生します。自動車の台数や走行量が増えるほど、温室効果ガスの排出量が高まり、地球温暖化を加速させてしまうのです。そこで、車の脱炭素化として、脱ガソリン車が注目されています。
欧州連合(EU)では、ガソリン車やディーゼル車(軽油を燃料とする車)の新車販売を2035年に事実上禁止する方針が発表されており、アメリカにおいても電気自動車の販売が強化されているのが特徴です。世界中で車の脱炭素化が進む中、日本ではどのような取り組みを行っているのでしょうか?
日本における車の脱炭素化目標とは?
2020年に、日本は「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という目標を宣言しました。自動車が排出する二酸化炭素は多く、日本全体の約2割弱を占めています。つまり、排出ゼロを実現するためには、車の脱炭素化は必要不可欠であるということです。
2021年1月、日本の総理大臣は「2035年にはすべての新車販売を電動車にする」と発表しました。これにより、東京都は2030年までに、市場に出される軽自動車をふくむ乗用車の新車販売をすべて電動化する方針を固めました。
日本の自動車メーカー各社は、脱炭素化への取り組みを強化し、目標達成へと動きを活発化しています。
脱炭素化に良いとされる車の種類には何がある?
脱炭素化に良いとされる地球にやさしい車「エコカー」の定義はあいまいです。そのため、どこからどこまでをエコカーと呼ぶかは人によってちがいます。今回は、エコカーの中でもメインとなる「電気自動車(EV)」と「ハイブリッド自動車(HV)」について、それぞれの特徴やメリット・デメリットについて解説します。
電気自動車(EV)
電気自動車とは、ガソリンを使用せず、電気だけで動く車のことです。EVとも呼ばれており、「Electric Vehicle(エレクトリック・ビークル)」の頭文字をとっています。
外部電源から車のバッテリーに電気を充電し、モーターの力で走行します。電気100%で走る電気自動車にエンジンはないので、ガソリンは使用しません。そのため、走行中は二酸化炭素などの排出ガスを一切排出しません。
また電気自動車は、モーターで走るので騒音や振動が少なく、スムーズに加速するところも特徴です。ガソリン代に比べるとエネルギー代のほうが安いので、車の維持にかかる費用を安くおさえられるところもメリットといえるでしょう。
ただし、航続距離(燃料を満タンにした状態で走行できる距離)が短いこと、充電するのに時間がかかるところは、電気自動車のデメリットです。さらに、駐車場には充電設備も必要なので、初めは出費がかさむおそれもあります。
なお、電気自動車を購入するときには国から補助金が給付され、電気自動車に移行しやすいよう国もサポートしています。
ハイブリッド自動車(HV)
ハイブリッド自動車とは、複数の動力源を備えている車のことです。HVとも呼ばれており、「Hybrid Vehicle(ハイブリッド・ビークル)」の頭文字をとっています。
ハイブリッド自動車には、走るしくみがいくつかあります。なかでも多いのは、ガソリンで動くエンジンと電気で動くモーターの2つが動力源となっているケースです。基本的にはエンジンの力で走行し、発進するときやおそい速度で走行するときにはモーターで、またはモーターがエンジンの補助となって走行します。
モーターへの充電は、エンジンで走るときに発生するエネルギーが使われるので、電気自動車のように外部からエネルギーを充電する必要がありません。ガソリン車と同じように、ガソリンを給油して走行します。
ガソリンを使用するにしても、電気で走行している間は二酸化炭素が排出されないので、地球にやさしいのはまちがいありません。またガソリン代をおさえやすく、財布にやさしい車でもあります。
ハイブリッド自動車のデメリットを挙げるとすれば、大きなバッテリーが必要なので車内スペースが少しせまくなること、高速道路など長い間スピードを出して走行することが多ければ燃費はガソリン車とほとんど変わらないこと、の2つです。地球温暖化対策につながるかどうかは、ハイブリッド自動車を使用する環境にもよります。
車の二酸化炭素排出量はどのくらい?占める割合は?
車の脱炭素化の重要性を知るために、車が排出する二酸化炭素の量を見ていきましょう。2019年度の国土交通省のデータによると、二酸化炭素排出量全体(11億800万トン)のうち、自動車や船舶などの運輸部門が占める割合は18.6%(2億600万トン)であると報告されています。これは、産業部門の次に多い排出量です。
運輸部門の内訳は、自家用乗用車が45.9%(9,458万トン)、営業用貨物車が20.4%(4,193万人)、自家用貨物車が16.5%(3,390万トン)、そして航空や鉄道などの自動車以外が13.9%(2,861万トン)とされています。
わたしたちがふだん乗っている自家用乗用車が、地球温暖化にあたえる影響がどれほど大きいのか気付かされる数字です。いかに車の二酸化炭素排出量をおさえられるかが重要となることがわかります。脱炭素化の取り組みはさまざまですが、車の脱炭素化は効果的な策の1つです。
参考:国土交通省
車が二酸化炭素を排出するのは走行時だけじゃない?
車は、製造や輸送のときにも二酸化炭素を排出しています。たとえ電気100%で走る電気自動車であっても、車体を作るには多くの火力が必要で、さらにガソリンで動く輸送船によって各地に運ばれているので、二酸化炭素排出量ゼロとはいえないのです。
車の脱炭素化を実現するためには、製造から輸送、そして廃棄までをふくむ、車のライフサイクル全体で考えなければいけません。
たとえば輸送では、新車を運ぶときに利用する大型船や大型トラックから排出される二酸化炭素が課題です。最近では鉄道輸送に切りかえたり、効率のよい輸送ルートにしたりされています。
ただ、どんな輸送方法でも電気や燃料は必要なので、完全には課題が解決できていません。さらに日本は、石油や石炭などのエネルギー資源にたより、それらは他国から輸入しています。燃料を輸送するときに発生する二酸化炭素もまた、課題の1つといえます。
このように、車の脱炭素化を実現するためには、走行時だけでなく製造や輸送、さらには燃料や排出ガスなど、すべてに目を向けることが重要です。なかでも製造においては、大きな課題があるのが現実だといえます。
製造過程では電気自動車の方が二酸化炭素を排出する
製造過程において抱えている課題は、電気自動車の製造時に発生する二酸化炭素排出量が、ガソリン車の25倍程度になることです。
走行時に二酸化炭素を排出しない電気自動車は、今後台数を増やしていきたい車です。しかし、製造時にガソリン車の倍以上の二酸化炭素を排出するとなると、積極的に増やしていいのだろうか?という意見もあります。
特に、製造過程で多くの二酸化炭素が排出されるのは、バッテリーの製造時です。フォルクスワーゲンの報告では、電気自動車の製造で発生する二酸化炭素量のうち、約40%がバッテリー製造時に発生していると言われています。脱炭素化を進めるうえで、どれだけ二酸化炭素排出量を減らして製造できるかが課題となるのは明らかです。
参考:日本経済新聞
矛盾も?脱炭素化目標やEV推進の課題とは?
車の脱炭素化や電気自動車の推進には、さまざまな課題や矛盾があるといわれています。たとえば電気自動車においては、走行時の二酸化炭素排出量はゼロですが、バッテリーを充電するときは二酸化炭素排出量が多い火力発電を用います。また製造時には、ガソリン車の2倍近い二酸化炭素を排出するといわれているので、全体に目を向けると課題がたくさんあります。
さらに軽自動車は、もともと二酸化炭素の排出量が少ない車です。電気自動車になれば価格が高くなるうえ、重量も重くなり軽自動車ではなくなるでしょう。軽自動車を愛用する人も多い中、電気自動車に移行する必要はあるのか?という疑問も生まれます。
加えて、国土交通省によると、以下ようなデータも報告されています。
1人が1kmあたりの移動で排出する二酸化炭素の量は、自家用乗用車が130gに対し、鉄道はわずか17gであることが分かります。つまり、脱炭素化をかかげるのであれば、車の脱炭素化を進めるよりも鉄道事業に力を入れたほうが効果的では?という考えも生まれるでしょう。
まとめ
地球温暖化が深刻となっている今、車の脱炭素化が強化されています。電気自動車やハイブリッド自動車など、二酸化炭素排出量が少ない自動車が次々と登場し、将来的にはガソリン自動車の販売が禁止されます。
「2050年までに温室効果ガスの排出ゼロ」を目標にかかげている日本では、さまざまな取り組みがすでに行われています。しかし、車のライフサイクルに目を向けてみると、解決できていない課題もあります。目標を達成するためには、残された課題をどのように解決するのかが重要となるでしょう。