参考:https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/houritsu-4.pdf
2021年3月、農林水産省から「みどりの食料システム戦略」という、これからの日本の農業の30年先を見すえた長期的な見通しが発表されました。
「みどりの食料システム戦略」とは?
わたしたちの「食」は、調達から生産、加工、流通、消費まで、あらゆる関係者のつながりによって成り立っており、これを1つの大きな仕組みとしてとらえたものを「食料システム」と呼んでいます。近年、気候変動の影響や生物多様性の低下、SDGs をはじめとする環境への意識の高まりを受けて、社会全体を持続可能なものにしていくことが求められています。未来の子どもたちの「食」を守るためには、「食料システム」を環境にやさしい(=みどり)ものとし、みんなで身近な「食」について関心をもって、これを支えていくことが大切です。
「みどりの食料システム戦略」は、地球環境をこわしたり資源を使いすぎたりせずに、農林水産業全体の生産力を高めていくことを目標としていて、10年ごとの達成目標が設定されています。最終的には「2050年までに目指す姿」が具体的に示されていて、30年後の農業の方向性を見すえた長期的な戦略となっています。
生まれた背景
日本の農業を取り巻く環境はとても大きな課題があります。生産者の減少・高齢化だけでなく、地球全体の問題として挙げられる温暖化、大きな自然災害も深刻になっています。
また、SDGsや環境への対応強化も地球規模で求められる中、アメリカでは2020年2月に戦略が定められ、2050年までに農業生産量を40%増やすことと、人間の消費活動が環境にかける負荷を半分に減らすという目標を立てました。その動きはアメリカだけでなく、2020年5月には欧州連合(EU)でも2030年までに化学農薬の使用と危険性を50%減らし、有機農業を25%に増やすという取組がはじまりました。
この環境に配慮した有機栽培を進めて農業を強くしていくという経済政策が、世界で先立ってスタートしたことが大きな影響となっています。日本においても、地域の将来を見すえた持続可能な食料システムをつくることが必要であるという判断から生まれたのが、「みどりの食料システム戦略」なのです。
30年後の農業とは?
では、「みどりの食料システム戦略」が目指す30年後の農業とは一体どのようなものなのでしょうか?農業に関わる部分をぬき出すと、目標として主に以下の4つが設定されています。
- 農林水産業から出される二酸化炭素(CO2)を、限りなくゼロに近づける
- 危険性の低い農薬に変え、病害虫を管理するシステムを作って広め、今までの殺虫剤に代わる農薬などの開発によって化学農薬の使用量を50%減らす
- 輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%減らす
- 有機農業の取組面積の割合を、耕地面積の25%(100万ヘクタール)に拡大する
目標達成のためにどうしていくのか?
では、この大きな目標をどうやって実現していくのでしょうか。全体としては、これまで日本の農家がやってきた昔ながらの手法と、AI活用や新薬開発などを同時に進めていくようなイメージです。
CO2をはじめとした温室効果ガスを減らすためには、燃料電池や代わりとなる燃料などの新しい技術を開発したり、ヒートポンプや再生可能エネルギーなどのすでにある技術を広めていく必要があります。
ヒートポンプ:大気中などの熱を集めて、大きな熱エネルギーとして利用する技術のこと。エアコンや冷蔵庫、エコキュートなどにも利用されていて、ガスや石油と比べてCO2排出量を大きく減らすことができる。
再生可能エネルギー:石油や石炭、天然ガスといった有限な資源である化石エネルギーとはちがい、太陽光や風力、地力といった地球資源の一部など、自然界に常に存在するエネルギーのこと。どこにでも存在してなくならず、CO2を出さない(増加させない)ことが特徴。
化学農薬を減らすためには、今までも利用されてきた防虫ネットや稲の種もみの温湯消毒、害虫の天敵の活用などがあります。さらに、ドローンで害虫の位置を特定してその部分だけ農薬をまく「ピンポイント防除」、除草の手間を省力化するための「除草ロボット」、小型レーザーによる殺虫技術などが挙がっています。
また、「化学農薬の使用量を50%減らす」とありますが、これはただ量を減らすというのではなく、農薬による環境的・人体的な危険性を考えた数値を50%減らすというものです。この化学農薬の使用量を減らすために、危険性の低い新しい農薬なども開発されていくようです。
化学肥料を減らすためには、家畜のふんを活用したり、緑肥で地力を高めたりすることに加えて、これまであまり利用されなかった汚泥などの地域資源を、肥料的に活用する方法も考えられていくようです。また、肥料をよく吸収する品種を作り出したり改良したりするというのもあります。
緑肥:草などをくさらせずに土に混ぜて、肥料にすること。
さらに、有機農業の割合を増やすとありますが、日本は2017年時点で、耕地面積あたりの有機農業の取組面積が0.2%~0.5%ほどです。それを考えると、なかなか大きな目標であることがわかると思います。有機農業を進めていこうとしているのは、環境保全のためだけではなく、有機栽培が進む世界の国とも戦えるような輸出農産物を作るためでもあるのです。
「みどりの食料システム法」が誕生
2022年4月には、「みどりの食料システム法」という法律がつくられました。この法律では、「食料システム」を環境にやさしいものとし、「食」について関心をもって、これを支えていくという考え方を、基本理念としています。
さらに、環境にやさしい農林水産物が当たり前のようにお店に並び、当たり前のように買ってもらえるような社会を目指して、次のような取組を進めていくこととしています。
- 積極的な広報活動をする
- 生産現場で使える技術の開発を進める
- 地域の特性に応じた技術を広める後おしをする
- 生産現場の環境にやさしい取組を支援する
- 環境に配慮した持続可能な原材料調達を進める
- 環境にやさしい農産物のスムーズな流通を後おしする
- 環境にやさしい持続的な消費の拡大、食育を進める
- 生産現場の努力が見えるように分かりやすく表示し、消費者の方が選びやすいようにする
どんないいことがある?
では、「みどりの食料システム法」によってどんないいことがあるのでしょうか。農林水産省では、以下のように示されています。
- 消費者にとっては、有機農産物など環境に配慮したものを選ぶことが、地球の環境を守る「きっかけ」に。
- 事業者にとっては、「環境」が新たなビジネスチャンスを生む「きっかけ」に。
- 生産者にとっては、未来の子どもたちに豊かな自然を残し、環境に配慮した農林水産物を消費者にお届けする「きっかけ」に。
それぞれの活動の中で環境を意識する「きっかけ」になることが期待されています。