カーボンニュートラル実現に向けた取り組みが進む中、「合成燃料」というものが注目されています。ここでは、合成燃料がどのようなものなのか、期待される理由や製造工程について紹介します。
話題の「合成燃料」ってなに?
合成燃料とは、二酸化炭素と水素を原材料として作られる、石油の代わりとなる燃料のことです。「人工的な原油」とも呼ばれ、成分が石油と似ているので、ガソリンや灯油など、使い道に合わせて自由に利用できます。
合成燃料は、再生可能エネルギーを使って作る水素(このような水素を「グリーン水素」といいます)と、発電所や工場から排出される二酸化炭素や大気中の二酸化炭素を使って作ります。今までの化石燃料とちがい、ライフサイクル上で大気中の二酸化炭素を増やすことがない、カーボンニュートラルな燃料といえます。
合成燃料が注目される理由とメリット
現在、火力発電に使われている化石燃料を、燃焼するときに二酸化炭素を排出しない水素やアンモニアに置きかえようという動きが強まっています。また、ガソリン車から、電気自動車や水素を燃料とする燃料電池車への移行も進められています。しかし、水素やアンモニアで発電するには発電所設備を新しくする必要があり、たくさんの費用がかかります。長距離を移動する航空機や大型輸送トラック、船などの電動化や水素化は、電池の高性能化やリサイクルの問題などを乗りこえなければいけません。そのため一部の使い方については、まだしばらくガソリンやジェット燃料などが必要になると考えられています。しかし、カーボンニュートラルへの取り組みも世界一丸となって取り組まなければいけません。
そこで、合成燃料が注目されているのです。合成燃料を使うことのメリットは大きく4つあります。
合成燃料のメリット
- エネルギー密度が高い
長距離を移動する飛行機や船は、水素・アンモニアを利用したり、電動化したりするのが難しいとされています。その理由の1つがエネルギー密度です。水素やアンモニアなどのガス燃料は、ガソリンなどの液体燃料と同じ体積から得られるエネルギー量が少ないのです。そのため飛行機などで長距離を移動するには、これまでより多くの容積の燃料を積む必要があり、輸送機器自体を作り変えなければいけません。電動化についても同様で、現在の飛行機やトラックほどの距離を移動するには、電池を高性能にすることが必要です。体積あたりのエネルギー密度が高い液体の合成燃料なら、こうした問題がありません。
- 今までと同じ設備が利用できる
今まで使っていたガソリンやジェット燃料の代わりに合成燃料を使うことで、これまでの設備がそのまま利用できます。発電所や飛行機、トラックなど、これまで使っていたものをそのまま使えることは、経済性の面で大きなメリットです。 - 資源国以外でも作ることができる
化石燃料の産地といえば、中東や北米、ロシアなどが有名ですが、水素と二酸化炭素で作ることができる合成燃料なら、これまで化石燃料が存在しなかった場所でも作れ、さらに資源がなくなってしまうおそれもありません。もしかしたら、日本でもガソリンや灯油を作ることができる未来がくるかもしれません。 - 環境負荷が化石燃料より低い
合成燃料は原油よりも環境に悪い物質の量が少ないため、より環境負荷をおさえることができます。
合成燃料の製造工程
では、多くのメリットのある合成燃料は、どのように作られるのでしょうか。合成燃料を製造するプロセスを見ていきましょう。
- 原材料製造
合成燃料の原材料は水素と二酸化炭素です。水素は太陽光や風力で発電した電力で、水を電気を使って分解して作ります。二酸化炭素は工場などの排出ガスや大気などから回収します。 - 合成ガス製造
原材料製造で製造・回収した水素と二酸化炭素を反応させ、合成ガスを作ります。 - FT合成
合成ガスから合成粗油を製造します。合成粗油というのは、加工することでガソリンや灯油などを自由に作ることができる液体です。化石燃料でいう石油のようなイメージです。 - 製品化
化石燃料でいう「精製」の工程にあたる作業で、FT合成で製造した合成粗油からガソリンや灯油などを作ります。灯油やジェット燃料、軽油、重油など、石油製品を自由に作ることができます。