若者は農業をやりたくない?
最近、農業の後継者について問題になっています。農業従事者の平均年齢は67.8歳で、高齢化が進んでいると言われています。実際に、現在の日本の農業従事者は、5年前に比べて39万6000人も減っているそうです。かなり減っていて、2020年には152万人になったといいます。しかも、新型コロナウイルスの影響で、外国からの労働者が入国できないなどの問題もあるので、深刻な人材不足となっている分野です。では、農業従事者が減っているのは、若者が農業をやりたくないからなのでしょうか?
農業をやりたい人はたくさんいる
実は、全く逆なのです。例えば、都会から自分で農業を始めようと移住してきても、農地がもらえないということがあります。なぜかというと、農家さんたちが農業を離れるときに、大きい農家さんや近所の農家さんに農地を継承するからです。昔からやっている人はどんどん農地を増やすことができますが、その結果、新しく農業を始める人がもらえる農地がなくなってしまっているのです。これは、人手不足とはまたちがう問題のように思えます。
実際にSNSなどを見てみても、農業に関心があって興味がある人はたくさんいます。ちょっと体験してみたいという人も、やってみたら本気になる可能性もあるかもしれません。だから、今はあまり目立っていないだけで、新しく自分で農業をやってみたいという人はたくさんいると思います。しかし、現役の高齢農家さんが、それを受け入れていないというのが現実なのではないでしょうか。
後継者不足を加速させる「家制度の意識」
後継者不足の問題は、どうやら規制や法律という面よりも、意識の問題が大きいようです。農家さんは、後継者を子ども、特に息子にしかあげたくないという気持ちがあるといいます。この「子どもにしか継承できない」「農家は家業だ」という家制度の意識が、根深い問題のようです。
継承:財産や文化などを引き継ぐこと。
家制度:昔あった、家の仕事を子どもが継承するというしくみのこと。
令和3年公表の農林水産省のデータに「食料・農林水産業・農山漁村に関する意識・意向調査 農業経営の継承に関する意識・意向調査結果」というのがあります。データを見てみましょう。
「後継者はいますか?」という質問に関して、「後継者が決まっている(本人の同意を得ている)」という人が80.1%、「後継者が決まっていない」という人が19.7%でした。「後継者が決まっている(本人の同意を得ている)」と回答した人のうち、その継承相手が子どもであることが96.4%でした。
そして、子以外の親族は1.8%。新規就農者(新しく農業を始める人)または新規就農予定者も、1.8%しかいなかったのです。例えば、「後継者は決まっていないが、誰かに継承してもらいたい、しようと考えている」という人も子どもの割合が多くて、継承しようと考えている人でも、「新規就農者または新規就農予定者にあげたい」と思う人は6.1%になっています。つまり、新規就農者や新規就農予定者が、農地を継承してもらうというのは、かなり難しくなっているのです。
設問が変わって、「後継者候補を確保し、経営継承の同意を得られると考えますか?」という問いに、「現状のままでは厳しい」と思っている人が63.2%でした。これは、まだ決まっていないということです。そして、そのうち「いろんな公共機関にまだ相談していない」という人が64.7%でした。これから見ると、「後継者も決まってないけれど、相談もしていない」という人がかなりいるということなのです。
どういうところに相談する?
相談先には、JAや普及支援センター、農業委員会などがありますが、そこにも相談をしていないというケースが見られます。ということは、「子どもにしかあげたくない、だから相談もなかなかできない」という意識があるから、ハードルが高くなっているというのが、このデータから見えると思います。しかし、農家さんのほうから聞いてくれないと、相談先の人も支援できないことがあります。実際に、問題意識を持って取り組んでいる団体などはたくさんあって、農業をやめたい農家さんと新しく農業を始めたい人をマッチングするアプリやサイトなどもあります。でも、そういうところにまず登録するところまでいっていないという現状があります。何十年も農業をしていると、農作物は育てるのがとても大変なので、「経験のない人にいきなりできない」と思う人もいるのかもしれません。また、「自分の家の話だから、他の人に相談するなんてもってのほか」という人もいると思います。それらを変えるには、「こんな方法もあるよ」というのを広くみんなに知らせることが必要です。
後継者を増やすには?
先ほども言ったように、農地の継承には家制度の根深さがあります。また、農業は女性が経営者になることもハードルが高いのです。これは農業だけではなく、第一次産業、林業・漁業でも同じで、意外と日本中のあちこちで起きている問題なのかもしれません。「後継者を男性の子孫に」とこだわることで生まれる問題に頭をかかえている人たちはたくさんいると思いますが、意識ひとつで現状が変えられるかもしれません。意識できる人は周りの人に働きかけたり、意識を変えるのが難しいという人もだれかに相談したりすることが大切です。もしかすると、逆に若い人からのアドバイスや新しいアイデアがあるかもしれません。そうすれば、きっといい方向に向くのではないでしょうか。