ヨーロッパでは、「カーボンニュートラル(全体としてCO2を出す量をゼロにすること)」を達成するには、電気自動車をみんなが使うことが必要と言われていますが、日本ではちがっています。日本の自動車会社は、電気自動車だけではなく、いろいろなタイプの自動車を使って、最後にはCO2を出す量をゼロにすることを目指しています。カーボンニュートラルを達成するためには、水素エンジンや合成燃料などの技術開発を進めるというやり方もあるので、走行中だけでなくライフサイクル全体を考えた自動車作りをすることが大切だという考え方です。電気自動車は、走行中にはCO2が出ないので注目されがちですが、自動車を作ったり、リサイクルしたりするプロセスもふくめて考えると、すべての車が電気自動車になったからといってカーボンニュートラルを達成できるとは限らないのです。
ところが、ヨーロッパの国々は「2035年にガソリン車などの新車の販売を禁止する」と発表しました。CO2を排出する自動車は、ヨーロッパの国々で売れなくなることが決まったのです。ガソリン車だけでなく、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車も売ることができなくなります。2035年からは、電気自動車や燃料電池自動車など、走行中にCO2を排出しない車しか売られなくなってしまうので、自動車メーカーは対応を急いでいます。また、「2027年には、電気自動車で使うバッテリーを作るときのCO2排出量に制限をつける」ということも提案されました。実はこの提案によって、日本で作られた車は、たとえ電気自動車であっても、ヨーロッパで売れなくなってしまうかもしれないのです。
では、なぜヨーロッパで日本の車が売れなくなるのでしょうか。実はいま日本で自動車を作ると、CO2がとてもたくさんできてしまいます。なぜなら、日本の発電では、石油や石炭などの化石燃料を使った火力発電の割合がとても高くなっているからです。化石燃料を使って発電すれば、当然CO2も排出されます。火力発電でつくられた電気を使って自動車も作られているので、「つくる・つかう・すてる」という自動車のライフサイクルを考えると、他の国よりもCO2がたくさん排出されているということです。ヨーロッパなどでは、再生可能エネルギーを使った発電の割合が高いので、日本と比べてあまりCO2を排出せずに自動車を作ることができます。そのため、ヨーロッパなどのカーボンニュートラルを進める国々では、日本で作った車は買ってもらえないのです。
化石燃料を使って発電していることは、自動車を作るときだけではなく、自動車を使うときにもやっぱり問題になります。火力発電の割合が多い日本の今の状態で、電気自動車をみんなに使ってもらったとしても、充電に必要な電気をつくるときに多くのCO2が排出されてしまいます。つまり、電気自動車のふきゅうを進めるほど、CO2が増えてしまうかもしれないのです。それでは元も子もありません。ことのことが日本でそれほど電気自動車が作られたり、使われたりしていない一番大きな理由です。
日本でも火力発電の割合を減らすことができればよいのですが、そう簡単にはいきません。実はヨーロッパなどでは、外国と電線を通じて電気の輸出や輸入が行われています。しかし、日本はヨーロッパのように隣の国と陸でつながっていないので、国を超えて電力を送り合うことができません。そのため、CO2を排出しないエネルギーを、日本国内でどうやって安く、安定して発電し流通させることができるかということが、カーボンニュートラルを実現するためには重要です。
日本は今後、これらの日本の事情を考えて、日本独自のカーボンニュートラルを実現することが必要です。しかし、自動車工業は世界的なものなので、エンジンつきの自動車を売ることや、化石燃料を使った自動車作りをすることは、これからより批判されていくことでしょう。日本が世界を引っ張っていくためには、「よい暮らし」「よい車」「よい部品」に対する考え方が世界で大きく変わっていく中で、その考え方の動きをいち早くとらえることが重要です。