※この記事は、自動車工業以外の内容もふくまれています。
サプライチェーンをふくむ目標を設定している企業は少ない
2050年カーボンニュートラル宣言によって、日本国内でも二酸化炭素削減の流れが強まっています。その中で、サプライチェーン全体を対象とした「サプライチェーン排出量」を減らすことが重要だとされています。
サプライチェーンにおける二酸化炭素などの温室効果ガス排出量の計算は、3つのスコープに分けられます。具体的には、まず「スコープ1」が、自社で直接排出されているものです。製造設備で燃焼することで生まれる温室効果ガスなどがふくまれます。「スコープ2」が、他社から供給された電気や熱を使うことで間接的に排出されているものです。他社で温室効果ガスを排出して発電したものを使っている場合はこれにあたります。さらに「スコープ3」が、自社以外のサプライチェーンで排出されているものです。原材料の調達や輸送、通勤、製品の使用や廃棄で生まれる温室効果ガスがふくまれます。先進的なグローバル企業の多くは、スコープ3までふくめた「カーボンニュートラル」を宣言しています。つまり、サプライチェーン全体で排出を減らしていくということです。
そうしたグローバル企業は、すすんで気候変動対策に取り組んでいます。しかし大企業といっても、対象とする排出削減の範囲や目標とする年(スピード感)は、それぞれの企業の方針や業種によってもちがいます。世界の大企業を対象にした国際エネルギー機関(IEA)の分析(2021年2月時点)によると、業種や企業によって取り組みの優先対象範囲がちがうことがわかります(図1、注)。テクノロジーなど一部の業種を除くと、スコープ3をふくめて「カーボンニュートラル」を宣言する企業は、限定されているといえそうです。
サプライチェーン全体での排出削減の取り組みの課題
温室効果ガス排出削減についての先進的な取り組みを行う企業数をみると、日本はトップグループに入っています。しかし、そうした日本企業でも、サプライチェーン全体での排出削減の取り組みには課題があるようです。サプライチェーンでの排出削減の取り組みの難しさは、どこにあるのでしょうか。
サプライヤー(部品を製造し納入する業者)との意識のちがいや排出量の計算
ある団体が2021年10月に行なった各社へのアンケートによると、海外ビジネスを行う日本の大企業から、サプライヤーや協力企業への関わり方、排出量の計算など、排出削減以前の段階に関するコメントが寄せられました。サプライヤーや協力企業と企業との間に、排出削減に対する意識の差があるなどの課題もあります。
排出量の計算に関する課題については、サプライチェーンにおける排出削減に取り組むために必要となるそれぞれの会社や製品の排出量の現状を、数値としてきちんと評価できていないという点があります。特に、サプライヤーなど上流(自社製品やサービスで使う原材料やサービス)での排出量の計算がきちんとできていないというコメントが目立ち、なやみながら取り組んでいる様子がみられます。また、製品・サービスの使用段階での排出が多い場合は、下流(自社製品を作った先)もふくめた製品・サービスのライフサイクル全体で排出量をどう計算するのかなども課題です。
日本企業のサプライチェーンにおける排出削減に向けた取り組みに関する課題(アンケート結果の一部)
- 協力企業に温室効果ガスなどの話をしても、なかなか自分事へと落としこんでもらえなかった
- メーカーから物を買うときに環境に配慮した設計・製造方法であることを求めているが、これを数値にして社内で評価できているかはわからない
- サプライヤーでの温室効果ガス排出量を正確に見積もることが難しく、主なサプライヤーに対して調査してその結果から計算している
新興国との関わり
海外でビジネスを進める日本企業の中には、新興国にサプライヤーを持つ企業もあります。その中には、新興国も含めた海外サプライヤーとうまく排出削減に取り組むことができている日本企業もみられます。しかし多くの日本企業は、新興国のサプライヤーとの関係で課題をかかえています。排出削減への取り組みを「コスト(時間や費用などの負担)」と考えて、取り組みに理解をしてもらえなかったり、理解をしてもらえても優先順位が低く取り組みにまでたどりついていなかったりという課題があるようです。
日本企業のサプライチェーンにおける排出削減に向けた取り組みに関する課題(新興国)(アンケート結果の一部)
- 日本やその他の先進国では、サプライチェーンの取り組みは理解されやすいが、新興国での理解はなかなか得られず、コストの問題もさけられない課題である
- 利益につながらないと協力が得られにくい
- 特に開発途上国においては、発電量の増加とコスト低減に重きをおいているように思われる
- 先進国ではある程度インフラ(電気やガスなど、それがないと生活が成り立たないもの)なども整っており、社会にゆとりがある分、環境に対する意識も高くなるが、途上国では経済や社会の発展の方が最優先であり、環境はその次という印象がある。これらの国々のメーカーに対して環境配慮を要求しても、なかなかその意義や重要性を理解してもらうことは難しい
- 効率のよい機器を見極める技術力、使う技術力がない
- 国ごとの法整備やインフラ整備がどれくらい進んでいるかなど、日本ではすぐにわからない点が多い
コメントにもあるように、経済成長を重視する新興国にとって、発電量そのものが足りていなければ、発電量を増やすことの方がより優先されます。その結果、温室効果ガス排出量が大きい化石燃料をもとに発電量を増やそうとすると、排出削減の取り組みの逆を行ってしまいます。ほかにも、気候のちがい、電気のない地域など、新興国企業と先進国企業とはそもそもの条件がちがう場合があり、新興国のサプライヤーの取り組みに限界を感じる企業もあります。
まとめ
この記事では、サプライチェーンにおける温室効果ガス削減の課題を見てきました。世界にも工場をつくる企業が多くなっているからこそ生まれる課題があり、サプライチェーン全体で排出削減というのも簡単ではないことがわかります。製品ができるまでには多くの企業がかかわっているので、その企業をふくめて意識を高め、たがいに協力することが必要なのです。