プラスチックを使った肥料とは?
農業で使われる肥料には、まわりがプラスチックでおおわれているものがあります。プラスチックでおおわれている肥料は、作物の生育に合わせて、時間が経ってからでも肥料の効果を発揮します。そのため、追肥の必要がなくなるなど、手間を省く効果が高く評価されています。とくにむだな肥料を減らすことができるので、地下水などへ栄養分が流出することをおさえたり、温室効果ガスの発生をおさえたりと、環境面での効果を期待できる技術とされてきました。
そんな中起こった問題とは?
しかし、肥料の成分が土中に入った後に、その肥料をおおっているプラスチックの殻が河川や海洋へ流れ出ることが問題となってきました。国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)が採択されたことをきっかけに、プラスチック資源循環の議論が活発となりました。肥料関係団体は、2019年に「プラスチック資源循環アクション宣言」を公表し、農業者への注意喚起や、プラスチックの殻を分解しやすくすることなどに取り組むことを表明しました。
2021年6月に国会で制定されたプラスチック資源循環に関する法律(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)をきっかけに、農業用資材に使われているプラスチックによる環境汚染についても防止に向けて取り組むことが必要だとされました。そこで、「宣言」をさらに具体化して、取り組み方針と目標をどう達成していくかが定められました。
どうやって海洋流出をおさえるか?
まず、表面がおおわれている肥料にプラスチックがふくまれていることを、農家に知らせることが必要です。肥料をおおっていた殻が流れ出ると、海洋プラスチックゴミとなることを、パンフレットやチラシを作成することで伝えます。また、プラスチックなど肥料に使用されているプラスチックの種類についても、肥料が入っている袋などに表示することを検討するよう、国にお願いしていきます。さらに、肥料をおおっていたプラスチックの殻の流出を防止する対策を徹底することについても周りに知らせていきます。
また、農林水産省が神奈川県内で去年実施した試験によると、流出したプラスチックの殻の9割以上が代かき後であることが示されました。そのため、プラスチックの殻が浮いてこないよう、浅水代かきを行うように呼びかけています。大部分の地面が見えるくらいの浅めの水を入れて、移植前の落水(田んぼの水をぬくこと)は行わず、自然落水によって水位を調整することもポイントです。
さらに、流出防止のためのネットの使用も呼びかけています。あみ目が2ミリ以下のものが必要ですが、玉ねぎネットが活用できるといいます。これをバーベキュー用のあみに貼りつけて、水尻(田んぼから水を排出するところ)に設置します。
同時に、JAなどは流出の実態をくわしく調査し、より効果的な流出防止策を継続的に検討していきます。代わりとなる技術を開発したり広めたりすることによる「プラスチックの膜にたよらない農業の実現」が大切です。肥料をおおう膜をうすくしてプラスチック使用量を減らした肥料を広めたり、海に流出しても分解する生分解性プラスチックなどの素材を使用した肥料を開発したりすることにも取り組みます。
日本アンモニア協会によると、膜でおおわれている肥料は水田の6割で使用されているといいます。JAが膜でおおわれている肥料(プラスチック以外もふくむ)を生産し販売した量は15万トンだそうです。水田のほか、露地野菜(屋外の畑で育てる野菜)や果樹(くだもののなる木)でも使用されていますが、水田は水路から河川、海洋へ流出することが問題となります。2021年3月に公表されている「マイクロプラスチック等の流出実態調査」によると、日本国内からのマイクロプラスチックの流出量は推計で年間157トン。このうち肥料用カプセルは15%で、人工芝の次に多かったといいます。
膜でおおわれた肥料以外の選択も
他にも、水にゆっくりと溶け出していく「IB肥料」などや、水田の水口(水の入り口)から灌漑水といっしょに粒状・液状肥料を流しこむことで簡単に肥料をあげることができる「流しこみ液肥」を活用する方法などがあります。また、ドローンを活用して肥料をまく技術も期待されています。