温暖化が稲作に与える影響

 地球温暖化おんだんかにより、千葉県においても、水稲すいとうの生育期間にあたる3~8月の平均気温は、どんどん上がっていっています(図1)。平成27~30年の3~8月の平均気温は20.4℃と、平年値の19.0℃と比べて1.4℃高くなっています。そこで、千葉県において温暖化おんだんか水稲すいとうに与える影響えいきょうと、その対策たいさくについてご紹介しょうかいします。

図1.3~8月の平均気温のうつり変わり(昭和59年~平成30年)

1.出穂期が早くなる

 生育期間中の気温が上がったことにより、生育ステージがだんだん早くなってきていて、出穂しゅっすい期については4年に1日のペースで早くなってきています(図2、図3)。このため、追肥ついひや病害虫防除ぼうじょ収穫しゅうかくなども生育ステージに合わせて早める必要があります。

図2.「コシヒカリ」における5~7月の平均気温と出穂しゅっすい期との関係(昭和59年~平成30年)
図3.「コシヒカリ」における出穂しゅっすい期のうつり変わり

2.前半の生育が行きぎに

 近年、幼穂ようすい形成期の生育(茎数けいすう×葉色)が行きぎになる年が多くなっています(図4)。このことは、籾数もみすうの増えすぎなどにつながり、品質が低下する要因よういんになります。幼穂ようすい形成期の生育が行きぎとなる原因げんいんの1つとして、移植いしょく後の気温が高くなり、生育前半の分げつ(枝分かれ)がさかんになることが考えられます。そのため、茎数けいすう制御せいぎょし、幼穂ようすい形成期の生育量を適正てきせい範囲はんい内に収める中しなどの管理がより重要となっています。

図4.「コシヒカリ」における幼穂ようすい形成期の茎数けいすう×葉色のうつり変わり

3.くきがのび、たおれやすい

 出穂しゅっすい期前50~4日の日最低気温の平均が高いほど、かんくき)がのびる傾向けいこうがあります(図5)。かんがのびることでたおれやすくなるので、気温の高い年はたおれやすい環境かんきょうといえます。このため、たおれに弱い「コシヒカリ」などの品種では、前半の生育制御せいぎょ幼穂ようすい形成期の生育にあった適正てきせい肥料ひりょうの管理などがより重要になります。また、移植いしょく後の気温が高い晩植栽培ばんしょくさいばいいね通常つうじょうよりおそく植える栽培さいばい方法)ではさらにたおれるリスクが高まるので、5月中下旬ちゅうげじゅん移植いしょくする「コシヒカリ」では基肥きひ(植えつける前にまく肥料ひりょう)などの窒素ちっそ量を少なくし、4月下旬げじゅん移植いしょくよりも生育、目標収量しゅうりょうをおさえた栽培さいばいをする必要があります。

図5.出穂しゅっすい期前50~4日の日最低気温の平均へいきんと「コシヒカリ」の稈長かんちょうとの関係(平成15~30年度)

4.高温登熟障害とうじゅくしょうがい増加ぞうか

 登熟とうじゅく期間中の気温上昇じょうしょうにより、基部未熟粒きぶみじゅくりゅう背白粒せじろりゅうなどの白未熟粒しろみじゅくりゅう増加ぞうかする高温登熟障害とうじゅくしょうがい(写真1)が発生しやすくなっています。この障害しょうがいは、近年全国的な問題となっており、発生条件じょうけん対策たいさくは以下のとおりです。

写真1.高温登熟障害とうじゅくしょうがいにより発生した基部未熟粒きぶみじゅくりゅう背白粒せじろりゅう
ことばを知ろう

高温登熟障害とうじゅくしょうがい:イネが登熟とうじゅく期(開花から約40~50日間)に高温にさらされると、白くにごったお米が多くできる障害しょうがいのこと。

白未熟粒しろみじゅくりゅう胚乳はいにゅうにデンプンがつまる時期に、高温や日照不足などでデンプンがつまりきらないうちに登熟とうじゅくが終わってしまった未熟みじゅくなもののこと。デンプンのつまらなかったものには空気のすき間ができ、それにより光が乱反射らんはんしゃする(いろいろな方向に反射はんしゃする)ことで白く見える。

基部未熟粒きぶみじゅくりゅうはいを下にして立てた際の下側(基部きぶ)に、玄米げんまいの長さの5分の1以上にわたって白くにごっているもののこと。

背白粒せじろりゅう登熟とうじゅく中~後期に何らかの問題が発生したことで、背側が白くにごって見えるもののこと。はいを下にして立てたときに、はいがある側を腹側、反対側を背側という。

(1)高温登熟障害とうじゅくしょうがいの発生条件じょうけんと品種間の差

 高温登熟障害とうじゅくしょうがいに対する耐性たいせいには品種によって差があり、「ふさおとめ」は「コシヒカリ」や「ふさこがね」と比べ耐性たいせいが強く、近年の気象条件じょうけんでも対策たいさくは必要ないと考えられます。一方、「コシヒカリ」と「ふさこがね」については、出穂しゅっすい期後の気温が高い場合、高温登熟障害とうじゅくしょうがいで見た目が悪くなり、等級が低くなるリスクが高まります。このため、「コシヒカリ」と「ふさこがね」では、出穂しゅっすい期後の気温が高いと予測よそくされる場合、以下の軽減対策けいげんたいさくが必要となります。

(2)高温登熟障害の軽減対策

 高温登熟障害とうじゅくしょうがい軽減けいげんするためには、登熟とうじゅく期間中の葉色を保つことが有効ゆうこうです。このためには、前半の生育量を制御せいぎょして適正てきせい追肥ついひをして、出穂しゅっすい期における生育量を適正てきせい範囲はんい内におさめることが重要となります。しかし、追肥ついひまでの管理が適正てきせいでも、近年急激きゅうげきに葉色が悪くなるケースが見れます。このため、出穂しゅっすい期前7~5日(ばらみ期ごろ)で葉色があわく、出穂しゅっすい期後14日間の最低気温の平均へいきんが高温だと予測よそくされる場合は、追肥ついひをすることで高温登熟障害とうじゅくしょうがい軽減けいげんします(図6)。軽減対策けいげんたいさくが必要となる出穂しゅっすい期後の気温や追肥ついひ時の葉色の目安は表1のとおりです。

図6.出穂しゅっすい期7日前の追肥ついひが高温登熟障害とうじゅくしょうがいの発生に与える影響えいきょう(平成30年度)
表1.高温登熟障害とうじゅくしょうがい軽減対策けいげんたいさくが必要となる目安
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