1.はじめに
稲作農業においては、農業をする人の高齢化と減少にともなって、所有者がそれぞれちがい散らばっていた農地を、地域の中心となる担い手にまとめて規模を大きくする動きが進んでいます。また、近年は気候が大きく変化しているので、稲の状態に合わせてふさわしい時期に肥料をやったり、収穫したりすることがより重要になっています。
一方、次世代の農業として、近年「スマート農業」が注目されています。稲作のスマート農業技術には、
- トラクタやコンバイン、田植機など農業機械の自動化技術
- 給排水など水管理の自動化技術
- ドローン撮影やセンサなどを使った栽培環境や生育量のセンシング技術(センサを使って様々な情報を計測して数値化する技術)
- 作業記録や生産状況データをほ場(田や畑など、農作物を栽培するための場所)ごとに管理するシステム
などがあります。
千葉県の東葛飾地域では、大規模な稲作グループを中心に、スマート農業技術を活用し、作業のむだを省いたり従業員の経験不足を補ったりすることで、経営を効率よく行う取組が始まっています。
2.「GPS田植機」を取り入れることの効果の検討
東葛飾農業事務所では、近年広まっているGPSなどの衛星測位情報(人工衛星を利用して現在位置を計測することでわかる情報)を活用して、運転をサポートする装置を組み込んだ田植機(以下、「GPS田植機」)を取り入れることの効果を検討するため、平成30年度、我孫子市で現地実証試験(実際に使って効果があるかや問題がないか調べること)と検討会を行いました。
今回試験に使用したGPS田植機には、衛星測位情報を利用し、ハンドルを自動で制御してまっすぐ走ることができるという機能があります。最初の田植え行程は基準となる線を登録するために手動で運転しますが、次の行程からは基準となる線と同じように自動で走ることができ、簡単にまっすぐな田植えができます。
実証試験では、GPS田植機を利用することにより、田植えにかかる時間を21%短くできることが分かりました(下図)。GPS田植機を取り入れるのにかかるお金は、田植面積が54.2ヘクタール以上であれば、GPS田植機を使わないときの労働にかかるお金と同じくらいであると計算されることから、55ヘクタール以上の規模の稲作グループへ広まる可能性は高いと考えられます。
また、現地検討会では、参加した生産者から「田んぼがでこぼこでも、機械のサポートできれいに植えられるのか?」「GPS田植機を取り入れることによるメリットは?」などの質問が上がり、関心の高さが見られました。さらに、田植えの実演を担当した農家からは「作業時間を短くでき、機械のサポートで集中して運転する時間が減り、疲労感も軽くなる」とのコメントがあり、いそがしい田植えシーズンの負担を軽くするための対策として期待できます。
3.水田作業の効率化に向けて
経営面積が大規模化することで、作業時間をわずかに短くすることの積み重ねが、結果として大きくむだを省くことになります。GPS田植機を取り入れることは、田植えの負担を軽くできることに加えて、
- 田植え前の水抜きがいらなくなり、排水によって環境にかかる負荷を少なくすることができる
- 経験が浅いオペレーター(農地を借りたり、農作業の一部や全部を引き受けて経営したりする人)でも簡単に操作ができる
などのメリットがあります。
また、東葛飾地域では、刈り取るときに玄米の収量(収穫したものの分量)や玄米に入っているたんぱくの量を計測できる収量食味コンバインや、完全無人化を実現するロボットトラクタの実証実験が、国の事業により行われています。今後も農業の人手不足が予想される中で、活発に研究開発が行われているスマート農業技術を活用し、効率化を進めていく取組はますます重要になります。将来にわたって安定した経営を続け、地域の水田を次世代につなぐため、大規模稲作グループの努力は続いています。