化学肥料はいけないものだということを耳にしますが、本当にそうでしょうか?「化学肥料が絶対ダメ」とは言い切れません。植物が必要とする養分について理解し、必要な分だけの化学肥料を使うようにすれば、化学肥料の害はそれほど問題とはならないのです。
でも、実際の農業の現場で、植物が必要とする肥料をしっかり理解した上で、化学肥料を使用している農家はほとんどありません。それは、たとえば、医者でない私たちが、自分の病気の治療に必要な薬の量を知るのと同じくらい難しいことなのです。
その結果、農家は化学肥料を使用しすぎ、次に紹介するような害をもたらしています。そして、ある女性もそのような失敗をしたことで、結局、化学肥料の使用をやめたそうです。
化学肥料がもたらす害1:土壌生物がいなくなり、土が死んだ
土が死んだと言われても、ピンとこないかもしれません。有機農家をしているある女性は、以前は農業系のサラリーマンで、全国の様々な農業現場を調べていたといいます。そこで見た光景は、おどろくことに、畑ではなく砂場でした。
これは、その女性が撮影した、日本でも有名な野菜の産地の土壌の写真です。もし畑で化学肥料を使い続けると、土壌微生物がいなくなり、土は弾力性を失って、固く活力のない死んだ土になってしまいます。
化学肥料で土壌微生物がいなくなってしまう原因は、だいたい次のとおりです。
- 植物が養分を吸収した後に残る化学物質が、微生物にとっては猛毒である。
- 化学肥料は微生物の力がなくても吸収されるため、微生物の仕事がなくなってしまう。
- 化学肥料によって仕事がなくなった結果、微生物がいなくなる。
このような土壌微生物がいない畑で、有機肥料を使って野菜を作っても育ちません。なぜなら、有機肥料は土壌微生物に分解されないと植物に吸収されない肥料だからです。結局、この砂場のような死んだ畑では、化学肥料を使い続けないと、野菜が育たなくなってしまうのです。
化学肥料がもたらす害2:農薬が必要になるほどに、害虫から攻撃を受ける
この女性は農業を始めた当時、どのくらい肥料をあたえていいかがはっきりと分からず、標準よりも多めに化学肥料を使っていました。このときは、とにかく害虫になやまされていましたが、農薬は使いたくなかったので、何時間も手で虫を駆除していたといいます。
ある時、知り合いの農家に相談すると、「君が化学肥料を使いすぎるからだ。肥料を使わずに育ててごらん。今よりも確実に害虫の被害は少なくなるから」と言われたのです。そして、おそるおそる肥料の量を減らすと、本当に害虫による被害が少なくなったのです。
そしてこちらが、化学肥料を全く使わない今の有機畑で撮影した、先ほどと同じ野菜の写真だそうです。
もちろん、農薬の使用は一切なしですが、全然ちがいますよね。
ちなみに、肥料をあたえすぎる野菜が害虫の攻撃を受ける原因には、以下のようなしくみがあります。
- 肥料を吸収しすぎた野菜は、体内にたまった窒素肥料を体内から出そうとして、空気中にガスとして放出する。
- 害虫は、その放出されたガスをめがけて飛んでくる。
畑にまくと水だけですぐに吸収される化学肥料を多く使うと、害虫に攻撃されやすくなるということです。つまり、日本が農薬大国となってしまう大きな原因の1つは、化学肥料の使用が多すぎることなのです。
化学肥料がもたらす害3:野菜が不健康になり、人間も不健康になる
先ほど、「化学肥料を使うと微生物がいなくなり、土が死んだ」と書きましたが、この場合、不健康になるのは人間だけではありません。実は、野菜自体もそして、人間も不健康になります。
化学肥料で野菜が不健康になるとは?
要するに、これは肥料の食べすぎです。人間でも食べすぎは肥満のもととなり、病気の原因になりますよね。野菜もそれと同じで、肥料(窒素成分)を吸収しすぎると、人間と同じように病気になりやすくなります。肥料分を多く吸収した野菜は、抵抗力が低下して病害虫に攻撃されやすいだけでなく、細菌やウイルス性の病気が植物体内に入りやすくなります。
化学肥料で人間が不健康になるとは?
先ほどからいきすぎた量の肥料を吸収することの害の話をしていますが、野菜の中に余分にたまってしまう物質は「硝酸態窒素」という化学物質です。これはハムやベーコンなどの発色剤(色をあざやかにし、細菌が増えるのをおさえるためのもの)としても使用される危険な物質で、食品会社はその取りあつかいにとても注意しています。
しかし野菜には、ハムやベーコンのようにふくまれる硝酸態窒素の量に基準値がないため、むだに肥料を吸収しすぎた野菜を食べるとかえって危険、ということになります。実際に、海外では、硝酸態窒素が原因で子どもが亡くなった事例があります。
ご飯とサプリメント、どちらを食べたいですか?
この女性が1番伝えたいのは、「化学肥料と有機肥料のちがいは、サプリメントとご飯のちがい」ということだそうです。毎日の食事をご飯でとりたいですか?それとも、必要な栄養だけサプリメントでとりたいですか?きっとみなさん、「ご飯を食べたい」と思うのではないでしょうか。
そして、野菜も同じだと思います。微生物の力が必要ない化学肥料から栄養をとるより、大地に根を張り、そのまわりに生きている微生物と力を合わせて栄養をとりたいのではないでしょうか?
このように考えると、農家が「化学肥料を使用していません」と胸を張って言いたくなる理由も、きっと分かってきますよね。